メンチカツ ページ8
厨房から、肉を油に落とした音がする。先ほどから揚げ物の香ばしい匂いが空腹の胃を刺激している。舌の裏に溜まった唾液を飲み下した。
今日は、初めてチーノとシフトの被っていない日だった。トントンさんと二人きりで仕事をすることを考えると、胃がしくしくと痛んで碌に食事も取れなかった。それなのに、こんな日に限ってメンチカツを揚げているのだ。私は獣の甘えた声みたいな音を鳴らす自分の胃をさすりながら、厨房の前を通り過ぎようとした。
「おい」
しかしトントンさんに呼び止められる。私はなにか粗相をしてしまったのかと身を強張らせて振り向いた。すると目の前に紙の包みに入ったメンチカツが差し出されていた。咄嗟に受け取ったはいいものの、少し食べるのが躊躇われる。
「人肉なんか入れるわけないやろ」
メンチカツを見つめたまま動かない私に、トントンさんがちょっと嫌そうな顔をしながらそう言った。
「そ、そうですよね」
気まずさを誤魔化そうとメンチカツにかぶりつく。揚げたてのメンチカツは、涙が出るほど美味しかった。事実、少し泣いた。歯をたてると、ザクリと音がする。ひき肉は噛むほど旨みが溢れ出て、食べている途中なのに腹が鳴った。
「すみませーん！」最後の一口を飲み込んだところで店の受付から大声で呼び出される。慌てて手についたメンチカツの油やくずを水で軽く洗い流し、受付に向かう。
ショーケース越しに立っていたのは、トントンさんほどとまではいかないが、背の高い男だった。そして、とてつもなくハンサムだ。
「ん？ チーノじゃないんか」
男はショーケースの上に手をつくと私の顔を覗き込んで言った。浅葱色の瞳の中に、呆けたような顔をした私が映っている。私から顔を離して、微かに口の端を持ち上げた男が、吐息だけで笑う。
「別にとって食ったりしねぇよ」
「あ、はい……」
「新しいバイトか？」
「そう、ですね」
「そうかそうか」
男は冷たい印象を与える微笑みを浮かべたまま、腕時計に視線を落とした。半袖のポロシャツから覗く腕は、少し日に焼けている。
「俺な、コネシマ言うねん。トントン呼んでくれるか？」
頷きで返事をして、厨房に向かおうとすれば丁度トントンさんがこちらに来ていた。私に一瞥もくれず、コネシマさんの前、私がいた場所に立つと不機嫌そうに言葉を放った。
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田中(プロフ) - 前々から気になっており、やっと今日読みました。素敵すぎました (10月19日 4時) (
レス) @page32 id: d6054e066b (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - miiさん» コメントありがとうございます！拙作へのお褒めの言葉、とても嬉しいです。名残惜しいと言って頂けて、書いた甲斐があったと思えました。本当にありがとうござました。 (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - 桜華さん» コメントありがとうございます。こうして無事に完結できたのは評価やお気に入りをしてくださった皆さんのおかげです。楽しんで貰えたならそれ以上に喜ばしいことはありません。本当にありがとうございました！ (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - コメント失礼します。完結おめでとうございます！関連作ランキングから見始めたのですが、タイトルから滲み出る不穏さと、リアルでありながら綺麗に可愛らしく描かれた心情が、とても好きでした。名残惜しいですが、素敵なお話をありがとうございました。 (6月12日 3時) (レス) @page31 id: 2d3cfb07c5 (このIDを非表示/違反報告)
桜華(プロフ) - コメント失礼いたします！完結おめでとうございます。かわいいお名前に惹かれて読みに来たら、まさかのお肉屋さんでびっくりです！！しかし、多彩な文書によって最後までとても楽しく閲覧させていただきました。素敵な物語をありがとうございます！！ (6月11日 23時) (レス) @page31 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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